谷崎潤一郎「秘密」論——「私」という人間像の表と裏

1冒頭部の分析から「秘密」(1)は、25歳だった谷崎が1911(明44)年11月に商業雑誌『中央公論』に発表した短編小説であり、原稿料が貰えたプロ作家としてのデビュー作である。「刺青」「麒麟」「少年」「幇間」などとともに、翌月に刊行された第一創作集『刺青』に収録されている。「刺青」「少年」のような初期の代表作とまではいえないが、『陰影礼賛』などにつながる闇の中の美を潜在させているとの評価も存在している(2)。テクストの冒頭は次のように書き出される。